山歩きの基本

山歩きの基本 初級編

(公)日本山岳ガイド協会 認定登山ガイド
天野 健司

基本の歩き方とは

山を歩くうえで重要なことは何か。トレーニング等を含めた登山以外でよく言われるのが、楽に楽しく疲れない歩き方を覚えるということでしょう。
正直、疲れない歩き方というのではなく、疲れにくい歩き方と言う方が正しいとは思いますが。
楽に楽しい歩きとは、体力・技術共に無理なく、ある一定のペースを維持しつつ自分なりの楽しさ、会話であったり山野草の観察であったりと、人それぞれの楽しみを取り入れることだと思います。
その為にも自分に合う歩行技術やペース配分をしっかりと身につけましょう。

1 歩くペースとその判断基準

歩くペースとは、その速度と思っている方も多いでしょう。しかし、山でいう歩くペースとは、足運びのペースを一定にするということです。つまり、一定の歩幅で同じようなリズムで歩く。このことが非常に重要になってきます。山の地形的な要因もあり乱れることもありますが、疲れてきた時や焦って急いでいる時の乱れは、後に過剰な疲れとして自分に戻ってくるので、急いでいる時こそ又疲れているからこそ、姿勢を正し一定のリズムで歩き続けましょう。グループ山行の時は、リーダー若しくはサブリーダーが早い段階から同行者の状態を良く観察し判断して、全体のペースを調整していきましょう。
ゆっくり歩くとは、どのようなペースか。それは、街中を歩くスピードの約60~80%のスピードで歩幅は小さく。よく言われているのが靴一足分の歩幅になります。そして、重要なのが心拍数です。急な登りなどでは、平地と同じとはいきません。その具体的な数字とは、最大心拍数の75%程度になります。
計算式   (220-年齢)×0.75
例   40歳(220-40)×0.75=135

2 歩行時の基本

【挨拶】
山で誰かとすれ違う時、見ず知らずの人から挨拶されて最初は戸惑ったという人もいるかもしれません。この挨拶は、決して山に登ってみんな良い人になってるだけでも、古き良き日本を懐かしんでるわけでもありません。挨拶から始まり、自分の進行方向から来た人に登山道の状況を聞きたい人もいるかもしれません。しかし、一番は挨拶を交わすことでお互いの顔色や体調を確認したり、ベテランになると声の調子から相手の気持ちの余裕まで察するようになります。そして、不安を覚えた相手には、その日の予定を確認したり、こっそり山小屋の人に相手の状況やすれ違った場所を伝えたりして、みんなで登山者同士の安全に気を配っているのです。ただすれ違っただけの赤の他人が、登る本人が立てた計画をなかなか止めたりはできないものです。それでも明らかに装備が足りない。体力的に無理そうだ。時間的に厳しい。このような時は山に携わる仕事をしている人やベテランと言われる人は、声を掛けて注意を促すことがあります。これは、もし万が一が起きてしまった時に遭難者の情報共有をするときに大変貴重な情報になりますし、万が一を避けるための一言でもあります。「うるさいな。」と思う前に、なぜ注意を促されたかの意味を考えて欲しいと思います。今まで挨拶をしたことがないという方もこれからは相手の顔を見て挨拶を交わしてみてください。そして、余裕があるならその日の山行計画やどこからきたかなど、話せる範囲でお互いに情報共有してみてください。何故なら、山ではすれ違った人しか万が一の時に正確な情報を捜索隊に伝えることができないのですから。

【姿勢】
登山では、「アゴが出る」と聞くことがあると思いますが、疲れてきて 前傾姿勢になることを言います。準備をする時にバランスを考えパッキングをしてハーネスを調整して背負っても、腰で支えて体の中心に軸をもっていくという目的が、この姿勢の崩れで全て無かったことになってしまいます。疲れてくる前から「腰で歩く」を意識し背筋を伸ばして歩きましょう。

【歩幅】
山を歩くとき、歩幅を小さくすればするほど、歩く負荷は小さくなります。これは、登り下り関係なく負荷の軽減に繋がります。また、歩幅を小さくとるという事は、体の安定性を高め膝や腰への負担を軽くします。スリップしやすい濡れた岩の上や落石の危険がある場所でも非常に有効な歩き方といえます。

【重心】
体の中心に軸を取ります。イメージとしては頭から背骨を通って腰に重心をおきます。そして、地面の傾斜ではなく地球の中心に対して先程の体の軸を垂直に保つイメージで歩くと体は安定するでしょう。また、このことと歩幅を併せると重心移動のコツも理解できると思います。大きな段差では、なるべく小さな段差で足を運べるように地面を観察し一気に足を上げることをなるべく避けます。そして、足場により進む方向が変わる時は、足だけではなく体全体の向きを変え常に腰の正面が進行方向を向くように心がけてください。これだけで、かなりの負担軽減に繋がると思います。

【目線】
山登りでは、常に足元や進行方向にだけ視線を置いていてはいけません。もちろん、常に数メートル先を見て地形を観察し進む方向を決めて歩かないといけませんし、不安定な場所では足元の確認を怠ってはいけません。しかし、山という特殊な場所では、周りの景色を確認することも大事です。常に目印とする山や建造物との位置関係を確認することが、道迷いなどのリスクを回避することに繋がりますし、周囲の地形を観察することで思わぬ落石などがありそうな地点への備えも可能です。また雪山では、雪崩の兆候や雪崩の痕跡を確認しながらの移動、雪崩道を回避するためのルートファインディングや地形の罠を確認することは、絶対に取るべき行動になります。このようなことから、目線は足元だけではなく周囲を観察することも忘れないようにしましょう。

【呼吸】
登り始めからの15~30分や急な登りなどでは、呼吸が「はぁーはぁー」 と、乱れがちだと思います。この2つタイミングでは、歩くペースとリズムを少し遅めに取ることも必要です。体の準備できてからペースを上げないと、登り始めの無理は一日中残ることがあります。また、これらのタイミングを含めて山行中に息が上がったり、急に高度を上げた際には呼吸法も重要となります。その呼吸法は、細く長く息を吹くように吐き完全に吐き切ったとこで、短く息を吸い込むということです。この息を吸い込むときは、意識して大きく吸うのではなく、肺が空になったことで自然に空気が満たされるのに任せます。息が上がる前に又、高山病の症状が出る前からこの呼吸法をするのが効果的ですが、息が上がってからでも10回程度この呼吸を繰り返すことで呼吸が落ち着くはずです。

3 歩行技術

【林道】
登山口までの林道歩きや山行最後の林道歩きは意外と長く30分以上歩いた経験のある方も多くいると思います。この林道歩きの間は、何も考えず歩くのではなく、グループであればお互いのコンディションやグループとしての最適なペース配分の確認等に充てたり、その日の予定コースや危険箇所を全員で認識し情報交換するなど有効活用してください。又、林道は、場所によっては複雑に入り組み迷路のようになっている事があります。特徴の少ない林道で道に迷うと思っている以上に時間を費やしてしまうものです。特に下山時は気を付けて地図で自分の位置を確認することを忘れないでください。

【平坦な登山道】
山の中では平坦といっても舗装道路のようにはいきません。路肩に積もった落ち葉の下の地面が緩んでいて踏んだ瞬間に踏み抜いて転落するかもしれませんし、上から石が落ちてくるかもしれません。これら思わぬ事故を防ぐためには、なるべく登山道の中心を歩き常に周りへ注意を払わなければなりません。意外と気の抜けるこのような場所で転倒しがちですので、気を抜くことのないようにしましょう。

【斜面の登り】
登り下り関係なく、登山道に傾斜がついている時は基本的には靴底全体で地面を捉えるようにします。そうすることで、スリップによる転倒を防げます。この時大切なのが荷重の掛け方で、登りでは地面に対して鉛直に。下りではどうしても腰が引け気味になるので僅かに前傾姿勢を意識するくらいで滑りやすいとこでも安定しますが、慣れが必要なので安全な所で練習してから実践してください。次に、前に進む推進力ですが地面を蹴るのではなく、荷重を体の中心から前へ移動させることで自然と後ろ脚が上がるイメージで練習するといいでしょう。この2つのことを斜面の登りで行うと適切な歩幅が理解できると思います。しかし、傾斜の角度が増すと歩幅だけでは対処出来なくなります。この時の対処は、両方のつま先をやや開き自分から見ると逆ハの字になるようにします。

そうすることで、過度に足首を曲げ続けないでも登れるようになります。更に傾斜が強くなると足の向きを3時9時に向けて登ったり横向きに登るなどの方法をとりますが、雪山のアイゼンワークにも繋がるので写真付きで解説します。

【3時の足の向き】 【9時の足の向き】

短針側の足は長針側の足先程度にとどめる。

【横歩き】

傾斜がキツく、足が疲れた時に有効!


【斜面の下り】

登りの項でも書きましたが、靴底全体で地面を捉えます。そして、重要なのが荷重の掛け方です。登りの項では僅かに前荷重と書きましたが、基本は「地球に対してまっすぐ(鉛直)に」です。しかし、ザレ場や濡れた岩、凍った斜面などを下る時には、意識していてもやや後ろ荷重になりがちです。そういった明らかに滑りやすい場所では、姿勢をまっすぐに保ち腰を少しだけ落として気持ち前傾姿勢にとると良いでしょう。又、下りでは歩幅を小さくし肩幅程度に足を開き気味にとるとより安定します。下り斜面は転倒・滑落の危険も多く、足に最も負担をかけると言っても過言ではありません。膝を傷めず永く登山を楽しみたいのであれば、正しい歩行技術をしっかりと身につけましょう。その為の追記として下りのペースについても書いておきます。下りは、大抵の人が早く歩けると思います。もちろん日没の時間や天気の崩れ具合などの理由で急いで下山しなくてはいけない時もあるでしょう。そのような時、正しい歩行技術を身に付けて実践していれば安定した歩きで早く下山できますが、もし、そうでないのなら、焦りのためにいつも以上にドスドスとかかとからの着地を繰り返しスリップによる転倒や怪我をするかもしれません。また、その日蓄積された足への負担が大きくなり足を引きずったり、踏ん張りがきかなくなり転倒することになるかもしれないのです。そうならないためにも、下山でのペースは普段から一定の速度を保ち正しい歩行技術で歩くことを意識しましょう。下りは自信があるから早く歩くのではなく、早く歩けるけどそれまでの登りや尾根歩きと同じペースで歩くべきなのです。どんなに確かな歩行技術を身に付けていても、ペースを速めればそれに比例して足への負担は増していきます。急ぐ状況にならない山行計画と山中での状況確認と適切な判断で、下りこそゆっくりと歩くように心掛けましょう。

ストックでバランスを取りながら、足先をハの字にすることで、スリップを止めている。

【トラバース】
一口にトラバースといっても、登山道の状況や幅、傾斜などの条件次第で注意点も様々であり、場合によってはフィックスロープを張らないといけないようなケースもあります。ここでは、一般的に言われている注意点等をあげるので自信の無い方は、認定ガイドの行う講習会やツアーに参加して技術を覚えてください。
登山道の幅が広く道自体の傾斜が緩い場合は、なるべく登山道の中央を歩きます。しかし、道幅が狭い場合や道の傾斜がキツイ場合は、足場が安定する範囲で山側を歩き、谷側の斜面の踏み抜きやスリップなどからの転倒時の滑落に備えてください。又、極端に足場が不安定な時は、山側にある手がかりを掴みながら移動すると良いでしょう。ただし、掴んだ物が小さめの岩や草、細い立木などの場合逆に危険な時もありますので、完全に体や荷重を預けたりせず、あくまで補助的なものに留めておいてください。もう一つ危険なのが、何かを掴もうとするあまり、体制が崩れ荷重のバランスが崩れることです。あくまで、姿勢は崩さず地球に対してまっすぐ鉛直に立つ。を守ってください。次に足の運び方ですが、歩幅は小さく。特にガレてる場所やスリップしやすい場所では小さければ小さいほど安定しますし、落石防止にも繋がるので、意識して小さく歩いてください。また、道自体の傾斜がキツくなると足先の向きも変化させると良いでしょう。通常は足先を進行方向に向けていると思いますが、山側の足先を進行方向に谷側の足先を傾斜に合わせてやや外側(靴底全体で地面を捉えて安定する角度)に向けて歩くと体が安定します。トラバース中の登山道は常に同じ状況ではありません。常に道に合わせた位置取り、歩幅、足先の向きなどを変化させ安定した歩きを身につけましょう。

山側のストックは短く持つことで鉛直を保っている。

*トラバース中の事故として代表的なのは転倒・滑落ですが、つづら折れの登山道や同じ斜面を何度もトラバースするようなところでは、どれだけ標高差があっても落石に注意して欲しい。思わぬつまずきで落とした石が下の人に当たった。となると、莫大な慰謝料請求が来るかもしれませんし、当たる箇所によっては死亡事故に繋がることもあります。つづら折れのトラバースでは、進行方向だけではなく上下にも目を配り、もし誰かと同じタイミングでトラバースしそうであれば、場合によってはトラバースを待つ(待ってもらう)などして上下行動を避けるか、お互いに存在を声掛けして伝えて注意喚起するなどしましょう。当然、落石を起こさないように細心の注意を心掛けてください。

【大きな段差・岩場の登り下り】
どんなにルートを選んで歩いても大きな段差や岩を登る場面はでてきます。段差が大きくなり両手を使って登る時、つい腕力に頼りがちになります。しかし、登山の基本は足で登るということは変わりません。あくまで、腕はバランス安定のための補助として使い、基本は足で登ってください。また、大きな段差や岩場での下りでは決して斜面に背中を見せず正対して両手両足を使って下りてください。これは、背中を斜面に向けて下りるとスリップ時に体を止めることが困難であり、ザックが段差にぶつかり押されて斜面に放り出されることがあるからです。

そして、この両手両足を使わないといけないような場所で一番重要な技術が三点確保(三点支持)です。この技術は、登りと下り両方で使う技術であり、特に下りでは足場が見えにくいため適切な足場を探しながら行うため、比較的練習しやすい登りで練習しマスターしましょう。また、この登りの練習の時にまずは岩を観察し、どこを登れば楽に登れるかを判断できるようになると実際の山行でもスムーズに登れるようになるでしょう。この時、できれば対象となる岩や段差以外の斜面全体のルートも確認し、どのルートで進むと安全に登れるかを見つけるルートファインディングの練習も併せて行うとレベルアップにつながります。尚、三点確保に関しては別項にて説明します。
この大きな段差や岩場で怖いのがスリップによる転倒・滑落。浮石を掴む又は、踏んだことによる滑落に落石でしょう。移動の際、手足の移動はなるべく小まめに行い、手足が伸び切ることがないように手と足の置き場を選びます。浮石の対策としては掴んだ岩、足場にする岩が動かないか確認してから荷重を掛けます。もし、その場に浮いた岩しか手掛かりがない場合は、岩を斜面に押し付けるようにしながら荷重を掛けると安定します。ただし、下りではこの技術はほぼ使えないので確実な手掛かりを探すか別のルートを選びましょう。この浮石に関しては気付いた時点で近くにいる人には例え別グループの人であっても伝えてください。浮石は時に人より大きい岩が浮いていて気付かずに岩ごと落ちてしまうような時もあります。山ではみんなでその場のリスクを共有することが重要ですので、必ず伝えてください。次に落石に関する注意点ですが、特に岩場では別の登山者と上下行動になりがちです。そして、この上下行動こそが落石時にリスクが最も高い行動になります。対策としては、まず行動中の人は不用意にあちこちに手や足を置かない。そして、ストックなども手首に掛けてぶらさげない。


よく初心者に見掛けるスタイルとして、腰にウェアを巻いている人がいますが、これは山ではNG。とっさの行動のさまたげにもなりますし、木の枝などに引っ掛かり転倒もあります。そして、岩を登っている時に引きずり石を落とすこともありますので要注意です。指先ほどの小さな石でも数メートル上から直撃すると大けがをします。行動には注意を払い、もし石を落としてしまったら大きな声で「ラク!」と叫び下の人に注意を促してください。次に同じ岩場にいる人ですが、先に行動している人がいる場合は必ずその人の姿が見えなくなってから動いてください。場合によっては、声の掛け合いも必要です。これは、自分が上にいる時は落石を起こしてしまう可能性。下に居る場合は、上からの落石や滑落してくる人に巻き込まれないようにするためです。岩場の下側にいる時は常に上の人との位置関係を把握し落石の音にも注意を払ってください。そして、行動の順番を待つときは安定した場所を選び、上からの落石が当たらない場所を選びましょう。

【三点確保(三点支持)】
両手両足を4つの支点と考え、そのうち3つを確実な支点として体を確保し残った1点を移動させることで次の支点を確保しながら進んでいく方法で、岩場での行動では、確実に身に付けておかなければいけない技術です。ここでの解説を読んで自分の行動と比較しただけで大丈夫と思わないで、可能であれば経験豊富な仲間やガイドに確認してもらい練習を繰り返し確実に身に付けてください。
手で掴む場所をホールド、足場をスタンスと言いますので、ここからは、ホールドとスタンスで表します。
まず体の位置ですが、岩に張り付くような姿勢はNG。体のサイズには個体差がありますので大体ですが、前腕部+体を岩から離します。

傾斜がキツくなればなるほど恐怖心との闘いになりますが、岩に体を密着させるとホールドやスタンスを次にどこに置くかの確認も行いにくく、手足の移動も困難になります。なにより、体の重心が安定せず余計に体力が必要になりますし、スリップなども起こしやすくなるので、まずはこの恐怖心との闘いを克服しましょう。
次にホールドですが、この時やりがちなのが大きなホールドを求めすぎて、体や腕が伸び切ってしまったり、体のバランスを崩してしまうことです。体の重心はあくまで体の中心におき、腰で荷重を支えるという基本は守ってください。そして、ホールドを求める時手足の2点以上が伸び切ると力も入りにくくバランスも安定せず、その姿勢から動けなくなるという方も初心者の方には見受けられます。ホールドはなるべく頭上(下りは腰)付近に求め、小さなホールドでもしっかり握れるようにいろいろな持ち方を練習しましょう。別の項でも書いた通り、手でバランスをとり足で登る(下る)という基本は変わりません。そう考えるとホールドを力いっぱい握りながら登る必要がなく極端な話、指1本でも掛かればホールドは成り立ちます。(ただし、下山ではスタンスを求めて重心を下げる為、ホールドはよりしっかりとしたものに求めるかそれなりの技術が必要)もし、それ以上の技術・体力が必要であれば、そこは一般登山道ではなくバリエーションルートであったり、クライミングの範疇にはいるので、不安な方はルートを変えることも必要です。
スタンスの技術は、技術的にはホールドよりも少なくなります。どうしても人は手で掴めることへの安心感や目線で追いやすいホールドに意識がいきがちですが、登山における岩登りでは足で登るという観点においてホールドへの意識よりスタンスを重視して欲しいと思います。スタンスへの立ち方は、小さなスタンスに足を横向きに引っ掛けて足先を開いてる人を時々見かけますが基本的にこれは間違い。靴先を真っ直ぐ岩に向けてスタンスに靴先を載せるのが正解です。

これは、靴の構造上の理由に加え人が安定して立つには足の親指の付け根で立つのが一番安定するという理由があります。それに加え足先を置くことで体のねじれを抑え次の行動へのアプローチへの安定感も生み出します。もう一つの基本技術として、岩の面に対して靴底の面を使い摩擦(フリクション)を利かせて立つという方法もあります。

この二つを意識することが上達への近道でしょう。
三点確保に言えることは、無理に大きく移動することなく小まめに移動し、より体が安定するホールドとスタンスを確保すること。そして、必ず3点が安定してから次の行動に移るということです。それによりスリップなどの突然のハプニングにも安心して対応できるようになります。岩場が苦手という方も小さな岩から練習し、確かな技術を身に付けることで正しく恐れ正しく行動することができますので、過剰に怖がらず練習していきましょう。
この項目とは少し違いますが、登山靴についても少し書いておきます。一口に登山靴といっても、多くのカテゴリーに分かれ目的に応じて素材・機能性が違ったりしています。この辺りのギアに関してはいずれ私より断然詳しいガイドの方に解説をお願いしようと思っていますが、一つだけ書いておきますと岩場を含むルートや長い距離を重い荷物を担いで歩く際は、バックパッキング用といわれるような靴底の堅いタイプを選んでください。この靴底の堅さにより小さなスタンスにも安定して立つことができ、足の疲れの軽減にも繋がるからです。登山用のギアには多くの種類がありますが、それぞれに目的に応じた機能があるので、ギアに関してもしっかり勉強していきましょう。

【ガレ場(岩塊地)】
大きな岩や小さな岩に砂礫などガレ場は、その時々で表情を変え歩きにくく体力的にもキツイという特徴がある。また、歩きにくいがために足元ばかり見て大きく登山道から外れてしまうということも起きがちなので、まずガレ場に着いたらルートの確認、ルートの上に落ちそうな岩が無いかなどの危険箇所の確認を行ってください。ガレ場でよく見掛ける目印にはペンキやケルンがあります。基本的にはこの目印を追えばいいのですが、時に踏み跡がおかしなルートをたどっていたりルートが崩れかけていたりするので、自分なりのルートファインディングをする方がいいでしょう。また、通過中も安定した岩の上で立ち止まり常にルートの確認を行うことも必要です。
次に歩き方ですが、その前に注意点を書いておきます。地面に埋まった大きな岩を除いて基本的に毎日動いているものと考えて行動しましょう。それは、大雨や雪解けによる水の影響の場合や、人的な要因の時もあります。それまで安定していた岩が急に浮いているということも普通におこることなので、いきなり足場となる岩に全体重を掛けてはいけないという前提を元に歩行技術は読んでください。
ガレ場とは、大小様々な岩や石が混在している場所であり、傾斜のキツい所では落石の可能性が極めて高い場所です。そのため、歩幅は極力小さくし斜面や岩に対して真上から荷重するように足を下ろすといいでしょう。途中に現れるザレ場においても同様で決して足を滑らせて歩かないようにします。また、ストックを突く場合はなるべく岩の上を避け岩の間の地面に突き、荷重を掛けずバランス補助の役割に終始することで石突がスリップして転倒しないようにします。
基本的には、安定した岩の上を一定のリズムで歩き、時折現れる地面があればそこを歩いたりします。一歩一歩違う表情を見せるガレ場は転倒の危険も多く、緊張を強いられる場所であり歩くリズムが狂いだすと非常に体力を消耗する所です。このようなガレ場を一定のリズムで歩けるようになるためには足元だけではなく進行方向の瞬時の見極めと判断が必要になりますので、慣れない人は慣れた人の後ろに付きその人の選ぶルートや足運び、踏む岩の選択の基準をよく見て参考にしましょう。

【ザレ場(砂礫・火山礫)】
小石程度のザレ場であれば、斜面での歩行技術と同じく地球に対してまっすぐ鉛直に立ち靴底全体でまっすぐ荷重を掛ければ滑ることはないでしょう。しかし、斜度が急で粒の小さい砂礫や火山礫の場所では、雪山で使うキックステップバックステップが有効です。登りではつま先を地面に蹴り込みながら斜面を捉え、荷重移動で前進し後ろ足はそっと抜くようにしてあげます。下りでは両膝を少し曲げた状態で、踏み込む足は斜面に真上からかかとを突きさすようにまっ直ぐ下ろし、平坦な足場を生み出します。この下りの時に、ザーザーと足を滑らしながら下りると一見早く楽に下りれるように見えますが、足への負担も大きく隠れた岩に引っ掛かり前に頭から転倒することもあります。何よりも、滑らせるということは、同時に大量の礫も滑り下ろすことになり、山の地形を変えてしまう行為にも繋がりますので絶対にやめましょう。

【キックステップ・バックステップ】

【グループ登山と休憩のタイミング・場所の選択】
休憩のタイミングはなかなかこうするべき。と断言することが難しい。人それぞれで疲れ方も違うし、ソロで慣れた人は自分の休憩のタイミングがあるでしょう。そこで、ここでは私自身がガイド登山をする時に休憩をある程度予定する時の考えと実際の休憩のタイミングで変更する理由を簡単に書いておきます。尚、この項はグループ山行として捉えて欲しいので、お客様ではなく同行者と明記します。
計画段階での休憩のタイミングは、まず目的の山頂までの行程をざっくりとコースタイム1時間単位で分割します。このタイミングをピッチと言い、各ピッチを同等位の疲労度で休憩するように心掛けています。山である以上、時間単位だけの休憩予定のタイミングで休むと休憩後にいきなり傾斜のキツイ登りになるということになってしまう場合があります。そのような場所はあらかじめ地図で確認しておき、ピッチより10分ほど早く数分程度の立ち休憩をいれ、傾斜を登り上がったところで、他より5分程度長めの休憩を予定したりします。また我々ガイドは、ガイド予定があれば可能な限り事前にルート下見として、そのルートを直近の日程で登ったりしますので、その時に予定の休憩地の景色であったり風の通り具合や日陰の有無を確認し微調整しますが、山仲間のグループなどであれば地図上で休憩に適した場所を事前に予想していくといいでしょう。それ以外には、決まり事として同行者の様子にもよりますが、登り始め10~15分後に一度5分程度の休憩を挟み衣類調整や水分補給、またストック等の出し入れをしてもらっています。休憩は、同行者に確認(例えば、暑くないかなど)をすると周りに気を使い大丈夫と答え後でバテてしまう人もいるので、自分から給水やザックを降ろしたりなどして全員が休みやすい環境を整えるのもリーダーであれば必要な行動でしょう。ここまでが休憩予定のタイミングになります。
それでは、実際の山行ではどうか。下見をしていないと仮定して書いていきますが、休憩場所の基本的な判断基準を交えて書いていきます。
まず、すれ違い出来ないような登山道では休憩しない。例えすれ違い出来たとしても幅が2m以下であれば座って休憩されると通行の邪魔になるものです。ですので、すれ違いが出来て幅が2m以下なら登山道の山側に寄り立ち休憩をします。一番最初の休憩は、大体登り始めで良い休憩場所が少ないのでこのような立ち休憩をとることが増えます。グループで登っている時にメンバーのコンディションが悪い時や気温が高い時も同様に立ち休憩を計画のピッチより短い間隔でいれることで、コンディションを整えていきます。ただし、休憩に適したスペースの安全地帯があったとしても、あまり長めの休憩や多すぎる休憩をとるとペースが乱れ、より疲れるということになりますので、あくまでその時々に合わせた休憩をとり、基本はペース配分でグループ全体の調整を図ることが大事です。
次にピッチ毎の休憩場所ですが、選ぶポイントがあります。先に書いた登山道の幅も大切ですが、基本的には危険箇所を避けるということが大前提になります。傾斜のキツイ登山道や細いトラバースでは休憩をもちろん避けるべきなのですが、もし他の登山者とすれ違う時には、山側の安定した足場に避けます。そのような場所で何らかの理由により立ち止まらないといけない状況(例えば靴紐がほどけたり足が攣る)になった時も同様で、グループの時は必ずリーダーが声を掛けて立ち位置を確認するよう促してください。ただし、その場所が崩壊地であったり落石の危険を伴う崖の下である場合は、立ち止まることをしてはいけません。前方からのすれ違いに対しては、危険地帯の前で待ってもらう若しくは待つ。後ろからの追い越しは危険地帯を抜けてから追い越してもらうなどの対応が必要になります。その他のポイントとしては、暑い季節では登山道の山側の木蔭や岩陰を利用し腰をおろして休憩できて贅沢を言えば風通しのいい場所を選びます。寒い季節や風が強い時は逆に風除け地で陽の当たるところを選びます。この寒い季節や長い距離を歩いた後の下山中の休憩は、あまり長く取ると体を冷やしてしまったり、疲労の溜まった足の関節が固まってしまう可能性があるので、なるべく5分以内の立ち休憩に留めておくのが無難だと思います。
次に休憩時の行動ですが、一番は水分補給。よくトイレが近くなるからと水分を我慢する方がいますが、夏に限らず冬でも汗はかきます。適度に水分を補給しないと熱中症をはじめ判断力の低下、肉体的パフォーマンス力の低下に繋がりますので、水分補給は必ず行ってください。また、小まめに行動食を食べることも大切です。一度はシャリバテという言葉を聞いたことがあると思いますが、急にパフォーマンスが落ち自分でも理由がわからない。という時によく原因になっているものです。適度にエネルギーや糖分を補給しないと「思うように足が動かない」ということになりますので、飴一粒でもいいので口にしましょう。ちなみに、山のベテランの多くの方やロング縦走をする人は、小まめに行動食を口にし、昼の休憩も15分程度と短くとる人が多くいます。私もそうなのですが、昼の休憩を長く取ることでの身体的なリズム(ペース)の乱れは後に影響が大きくなるので、行動中は行動食をメインに摂り昼は簡単に済ませるようにしています。長い距離を行動する時は、一度試してみてください。その他に大事なこととして体温調整があります。暑かったら脱ぐ。寒かったら着る。当たり前のことですが、ウェアをザックに出し入れするのが面倒で我慢という選択をする人がいます。しかし、山では気温だけではなく風の影響や汗冷えなどにより、思ってる以上に急速に体温を奪われます。気温10℃程度の場所に汗をかいたウェアを着て5分立ち止まっていたら、体が震えて上着を羽織ってもジッパーを自力で閉められない。なんてことにもなります。休憩時には面倒でもウェアを着る。行動中は暑ければ脱ぐ。必ず行いましょう。また、グループでの山行中であれば何かをしたいとき一人黙って立ち止まるのではなく、リーダー若しくは全員に伝えて待ってもらいましょう。ウェア調整で文句をいう人はいないはずです。それから、ガイド中の休憩時によく聞かれるのが、見えている山の名前や目的地までの時間だったりします。これは非常に大切なことで、個人でもグループでも全員が自分の現在地を把握しておくことが重要なのです。行動中は目標物を見失ったりして自分の位置を把握できてないメンバーもいるかもしれません。しかし、休憩時に再確認しその先の地形や情報を共有することで後の行程への備えができるので、長めの休憩時には地図を出して確認してください。それからよくあることなのですが、グループでの山行時に休憩を取り行動を開始するタイミングでトイレに行かれる人がいます。この行動は待つ側にとっては一度背負ったザックを降ろしたり、ただ立って待つだけであったりと心理的な面でもマイナスに働くのでトイレは早めに済ませておきましょう。登山においてのグループでの行動は、日常生活よりまとまりを必要とします。一人の身勝手な行動が他の人のペースを乱すことになり命の危険にも繋がるのです。グループで登る以上、例え初めての相手であっても同じ山を愛する仲間としてお互いに思いやり協力して山に登ってください。

4 ストック(トレッキングポール)を使う

【種類】
主なグリップの種類は、以下の3種類になります。
I型 最も山で見かけるタイプで多方向にストックを突きやすく持ち替えも簡単におこなえる。
ベント型 グリップ部分がやや前傾しており、握りやすく推進力も得られやすい。
T型 最も握力を使わずに使用でき重さを支えやすいが、やや持ち替えに難がありグリップ中ほどを握る際にトップが邪魔になるのでハイキング向きといえる。(あくまで個人的な使用感想ですが)
シャフトにも、折り畳み式、ねじ込み式や3つに分離できるタイプと色々ありますが、上腕部の骨折時などの副木などにも使いやすい分離できるタイプを私は使用しています。

【用途・目的】
歩くときに併用することで、体の安定を図ると共に膝や腰など体への負担軽減にも繋がります。
レスキュー時には、副木・松葉杖・担架の骨組みにもなり、またビバーク時にツェルトを立てて使用する際にも必要で使用しないような山行でも携行必需品です。

使用方法
【リストストラップ(リストループ)】
平地や緩やかな道が続くようなら手首に通しますが、登りや下りでは手を通さずに地形に合わせてグリップの持ち方や持ち手を変えて使用します。
雪山ではリストループに手は通さずに持つのをお勧めします。それは、雪崩に万が一巻き込まれた時にストックがアンカーとなり、雪崩に引き込まれるのを避けるためと、山行中にグリップを雪に差し込み簡易に雪質(スラブ)の確認を行う必要があるからです。

【シングルストック】
軽めの日帰り登山を楽しむ時や岩場やトラバースの多い登山道で多い使用方法。シングルで使用する際には、推進力よりもバランスを取る為の目的がメインで片手を空けておき、空いている手は岩や補助になる木などを掴んで体の安定を図ると良いでしょう。トラバースする時に山側に掴まる様な物がない時は、ストックを山側に突きます。この時、ストックは斜面に対して垂直に突き、体は地球に対してまっすぐ鉛直に保ちます。この為、シングルストックの時は左右の手で持ち替えることが多くなります。又、山側の斜面に突くということは、地面までの高さが変化する事も忘れてはいけません。常に同じ長さで使用するのではなく、ストック自体を短めに調整し直したりグリップの下を握ったりと、斜面までの高さに合わせて使用することで、体のバランスが崩れないように使用できるので覚えていてください。

【ダブルストック】
テント泊・小屋泊装備やロングコースを歩く時、また急な斜面を歩く時な ど様々な場面で使用し、威力を発揮する持ち方です。突き方は、前に出す足と反対のストックを踏み出す足よりやや前に突きます。体重を移動させる時に前に突いたストックで地面を押すようにイメージしつつ荷重を移すと足への負担が軽減されます。トラバースでは、山側のストックの使い方はシングルストックと同じだが、谷側のストックはやや前方に突き余り荷重を掛けずにバランスの補助を意識することで、地面の抜けによる転倒・滑落を防ぎます。又、石の多いトラバースなど落石の危険がある登山道では、意識して前方へ小さい幅で突くと落石を防ぐことができます。
・平地(写真)
・登り(写真)
・下り(写真)
・段差(写真)

*注意点として、ストックの管理次第ではジョイント部分が突然縮むことがあります。この時、ストックに荷重を掛け過ぎているとそのまま転ぶこともありますし、私の体験談としてストックが突然折れて滑落寸前で止まったということもあります。久しぶりに使うストックなどは特に点検とメンテナンスをして使いましょう。

*最低限度のマナーとして、ストックを手に持って歩く時は後ろの人に当たらないように後ろに突き出して持たない。雪山以外では、登山道や植生環境への影響を軽減するために石突にゴムキャップを使用する。(湿原ではストックの使用自体を控える)公共交通機関では、極力ザックに仕舞いましょう。

*岩場などが連続して現れるような道は、面倒でも毎回ザックに取り付けるか完全に収納しいつでも手を使える状態にするべきでしょう。又、ザック横に固定する時には、ストックが岩や木の枝に引っ掛かり思わぬ転倒を引き起こす場合があるので、そのような危険のある場所ではザックに余裕があるのであれば完全に収納するのも一つの選択肢です。

 

最後に
正しい知識と技術、適切な計画とそれに見合う装備を揃えることは、登山を行う上で最も重要であり、それが備わって初めて安全な登山を楽しめるということを忘れないでください。もし周りにその知識を持つ人がいないのであれば、認定ガイドが主催する登山教室などに積極的に参加して、より高く正確な知識と技術を習得してください。