山岳気象入門編

山岳気象 入門編

(公)日本山岳ガイド協会 認定登山ガイド
天野 健司

はじめに

この貢は、気象に関しての本やあらゆる情報媒体を通して一度は目にした事のある内容だと思います。しかし再度熟読し理解する事で、今後の山行計画及び山行中の判断材料の手助けになれば幸いです。

尚、入門編として必要最低限な部分のみの内容となっておりますので、内容を理解された方は更に深く掘り下げて、より深い気象知識を身につけていただきたいと思っています。

気温を予測する

季節・天気などに応じて変わる気温変化以外にも、山という特殊な場所では様々な要因によって生活している場所とは大きく気温に差が出てくる。その原因の中でもおおよその予測が可能なものが、標高・緯度・風の影響である。しかし、上空の気温や気圧配置によっては更に大きな気温の差が生じる事があるので、天気図をきちんと確認して判断することが必要です。
【気温変化に影響を与える因子】
標高:100mで0.6℃ 緯度:1度で0.9℃ 風速:1mでー1℃(体感温度)

天気図から観る気象変化

1 基本知識

日本の地理的な位置における特性として、偏西風の影響により主に西から東に流れる西風が吹いている。つまり気象変化は、西から東に同じような変化をたどる。しかし、季節によって向きが変わる季節風や気団・気圧による影響を受けて風向きが変化することがある。

これらの地球規模での風の影響は、日本が中緯度に位置している事とヒマラヤ山脈によるジェット気流・シベリア気団などへの壁としての影響が起因している。

この日本を取り巻く風の影響、とりわけ気団の影響のおかげで、我々は移ろう四季を感じることができ、また世界でも有数の大量の雪を冠する山に登ることができるのである。

2 日本を取り巻く気団

A 気団について・・・気団とは、発生した地表の影響を受けている。
高緯度で発生=低温/低緯度で発生=高温/大陸で発生=乾燥/海洋で発生=湿潤

B 日本に影響する気団

気団・気圧 解説 性質 主な風向き
シベリア気団
シベリア高気圧
冬にシベリアや中国東地区に発達する。
大陸性寒気団
寒冷乾燥 北西の風
オホーツク海気団
オホーツク海高気圧
梅雨や秋雨の頃に、オホーツク海や三陸沖に現れる海洋性寒気団 寒冷多湿 北東の風
北太平洋(小笠原)気団
北太平洋高気圧
北太平洋の亜熱帯(温暖)高気圧区域に現れる海洋性熱帯気団 温暖多湿 南東の風
揚子江(長江)気団
移動性高気圧
春と秋に揚子江(長江)流域で発現する、大陸性亜熱帯気団 温暖乾燥 穏やかな風の後、南東の風
熱帯気団

熱帯低気圧

熱帯及び亜熱帯に発生する気団の総称 温暖多湿 台風

*ここで、山、特に冬山に登る登山者に大きな影響を与えるシベリア高気圧について追記しておきたい。
冬の主な気圧配置として、西高東低の気圧配置を耳にすると思う。
これは、西(北西)にシベリア気団(シベリア高気圧)が発達し、日本の東海上に低気圧が発達した状態である。この時の等圧線が密になると、北西の風が勢いよく吹き出し日本海側に強風が吹く。また、高気圧の等圧線と低気圧の等圧線が南北に直線上に並んだ時も注意が必要である。
本来シベリア高気圧は、大陸性で乾燥した寒気団であるが、日本海を吹き渡る際に、暖かい対馬海流から大量の水蒸気の供給を受け、多湿の寒気団に変化する。
この湿った空気が日本の脊梁山脈にぶつかって上昇気流となり、積乱雲が発生し雪を降らし、時には雷を伴う暴風雪となるのである。
この時注意したいのは、脊梁山脈の風下側が晴れていたとしても冷たい吹きおろしの風や突風などが吹くことが多く、急速な気温低下や体感温度の低下が想像できる。そのため、それに対処できる防寒対策が必要だという事を念頭に置いて行動して欲しい。

3 天気図を読む(A~D計画段階・EF山行中に必要な知識)

天気図記号

 

天気図を読む上で知識として、記号、等圧線、低気圧、高気圧、前線などの理解が必要なので、簡単ながら解説しておく。

A 等圧線とは
地上天気図において、各観測点のデータを海面上の高さに海面更正した地上気圧の同じ所を結んだ線であり、その間隔は4hPa毎に引かれ、5本(20hPa)毎に太線で書かれている。等圧線が混み合うほど風は強まる。水と同様に風も高い所から低い所に流れる。

B 気圧とは
空気にも質量があり、地球の重力の影響を受け圧力がかかる。空気が暖められると地上や海上から水蒸気によって上昇気流ができ、空気の密度が下がり気圧が下がる。この気圧の高低は常に変化し気圧の山や谷ができ高気圧や低気圧となり、空気が流れる現象が風を生む。

C 低気圧とは
低気圧はその成因などによっていくつかの種類に分類される。どの種類においても共通している特徴を挙げておく。
低気圧は周囲の空気や風を引き寄せている。これを気象学的に「低気圧は気流を収束させる。」と表現され、その範囲は数百メートルから数千キロメートル以上になることがある。そのため、山に登る際には低気圧の位置と進行方向には特に注意しなければならない。又、後記する高気圧との位置関係、勢力の強弱にも細心の注意を払うことも忘れてはいけない。
低気圧の風の向きと中心の方向だが、北半球では反時計回り、南半球では時計回りに回転しながら中心の最も気圧の低い地点へ収束する。そのため、風を背にして立つと概ね左側に低気圧の中心があり、偏西風の影響により、東に移動していくと予想できる。しかし、周囲の気圧配置や前線の影響により停滞、加速、また進路を変える事もあり、事前情報として、対象の低気圧のみだけでなく、周囲の気圧配置にも注意しておいた方が間違いないだろう。
「低気圧が近づくと雨になる。」という事は、多くの方が理解していると思う。これは、低気圧の特徴として、暖かく湿った空気が勢力の中心に向かって上昇気流を生み出しているからである。上昇した空気はやがて雲を生み、地表に雨や雪を降らす事になる。低気圧のエネルギーの源は熱であり、この熱が強くなると上昇気流が強まって、低気圧が発達し、より激しい気象現象を引き起こす。山に限って言えば、ある程度の勢力を保った低気圧が山にぶつかり、上昇気流を更に加速させその空気の衝突により勢力を増し、山の上空に雲を発生させるのである。
つまり、山に登る計画を立てる際、低気圧の接近が予想される地点では、特に強い勢力の低気圧でなくとも注意が必要であり、平地での雨の心配がなくても雨具は携行するべきであるといえる。山に登る以上、ザックには常に雨具を詰めておくという大前提があるが、この事は別貢にて説明する。
尚、低気圧の進行速度は、周囲の気圧配置によって誤差は生じるが、概ね時速30㎞~40㎞である。つまり、東シナ海や九州地方にある低気圧は、24時間後には中部山岳地帯に到達するとみていい。このことも、山行計画を立てる際のヒントになるので、覚えておいて欲しい。
次項には、秋から春にかけて、山に入る際に重要な3つの低気圧について特記するので、雪山登山をするという人は必ず熟読して欲しい。

[1] 爆弾(日本海)低気圧
爆弾低気圧とは、台風並みの暴風雨をもたらす低気圧の俗語である。尚、日本の気象庁では、使用を控える用語と分類されている為、「急速に発達した低気圧」または「猛烈に発達した低気圧」と天気予報などでは表現されるので、注意していただきたい。
定義としては、緯度補正等があるため一概には言えないが、概ね平地で12時間に12hPa以上下降、山では6hPa以上下降、24時間では平地で20hPa以上下降、山で10hPa以上下降する。
日本付近においては、10月から長い時には5月くらいまで発生することがある。現象としては、日本海を低気圧が通過する際、南寄りの強い風が吹き気温が上昇する。低気圧が通過後は強い北寄りの風に変わり、気温が急激に下降して暴風雪となる。
この現象は、冷たく乾燥した大陸性気団と暖かく湿った海洋性気団が衝突する大陸辺縁部、特に東岸の冬季に多くみられ、日本海においては、対馬海流(暖流)とシベリア高気圧の影響が大きいと思われる。このことから、冬季に日本海において低気圧が発生し、その後面(西側)に強い寒気があるとき又は、低気圧の通過後に寒気が南下する場合は、日本海低気圧が爆弾低気圧となり特に大荒れとなるので、注意するというよりは山での行動は控えるべきであろう。

[2] 南岸低気圧
冬から初春の関東以西の太平洋側に大雪を降らせる。しかし、低気圧通過後に東海上で発達すると、日本海側の山々でも暴風雪となる低気圧である。
東シナ海、四国沖、東海沖などで発生し、日本の南岸を沿うように東北東に進む。
特徴としては、進行方向(東側)に温暖前線、西から南側に寒冷前線があり、反時計回りに回転してくる。
通過前には、北東や東の風が吹き、温暖前線付近では、強い南風に伴う暖気と雨が降る。寒冷前線通過後には、北西や西の強風が吹く。又、通過前と通過後の気温変化は気温が低くなる。
低気圧は、進行方向及び北側に広い降水域を持つので、接近に伴い太平洋沿岸で雨をもたらすが、通過する際の日本との距離・位置関係によっては、太平洋側に寒気を引き込み、大雪を降らせるので動きには注意が必要である。
勢力の変化は、爆弾低気圧と同じく12時間後、24時間後の低気圧の発達をみる。
進行方向は、高層天気図によって風向きを確認するとおおよその進路が予想できる。
気をつけて欲しいのは、この低気圧は他の強い気圧の影響などにより、進路を北上させたり、停滞・急発進、急速な発達をする事があるということである。
特に東シナ海付近でこの時期に低気圧が発生した際には、可能な限りギリギリまで動きを注視して欲しい。特記すべき事として、この低気圧が稀に九州山地によって分断され、後記する二つ玉低気圧に変化する事があるということである。

[3] 二つ玉低気圧
日本海低気圧と南岸低気圧が日本を挟むように通過するものをいう。
発生時期は、初冬または晩冬が多い。
二つ玉低気圧が発達すると、その位置関係で多少の差はあるが全国的に大きく天気が崩れる。この低気圧は3タイプあるのだが、最も注意すべきは、閉塞型であり二つの低気圧が前線で結ばれたタイプだ。このタイプは特に大荒れになるが、一時的に天気がよくなる『擬似晴天』もよく見られるので、突然天気が回復しても行動を起こしてはならない。
特徴も前記の二つの低気圧の特徴を併せ持つため、気温の急激な変化や暴風雨・暴風雪を考えると最も警戒するべき低気圧といえる。
特筆すべきは、通過後に東海上で一つの低気圧にまとまり爆弾低気圧へと変化する事があり、強い冬型の気圧配置となり大荒れの天気になるので、通過後も注意が必要ということである。
これらのことを考えると、この低気圧が発生した時には入山自体を取り止めるべきだと思う。

D  高気圧とは
周囲よりも気圧が高い所を指し、等圧線で見ると、山頂の等高線のように中心部は等圧線に囲まれて閉じている。一般的に上空の乾いた空気が中心部から外側に向かって時計回りに吹き下げている。この時の風は、高気圧の中心付近では弱く、遠いほど強く吹く傾向にあり、中心部から等圧線に約30度の角度で吹き出している。
尚、中心部では、周囲と比べ冷たく重い空気が集まり下降気流となり、この際、断熱圧縮により温度が上昇し、雲が消えていくのである。しかし、この後に解説する日本に影響を及ぼす3つの高気圧をみても分かるが、高気圧=晴天ではないということも留意して欲しい。

[1]  温暖(亜熱帯)高気圧
赤道地帯で上昇した空気が循環して北緯(南緯)30度付近で集積し、対流圏界面が成層圏に盛り上がり、軽く温暖にもかかわらず高気圧を形成する。この時、元々暖かい空気が断熱圧縮により更に暖かい空気として吹き出すため、温暖高気圧となる。日本付近では、これが北太平洋(小笠原)高気圧となる。

[2]  寒冷高気圧
上空に空気の収束はなく、下層の空気が放射冷却などによって冷やされ、地表面付近に溜まって密度が大きくなり高気圧になったものである。
このため、気圧が高いのは地表面付近のみで、上層付近では高気圧にならない。高さも2kmほどと低いため、高層天気図では、海抜約2,700~3,100m付近の700hPaでは不明瞭になり、海抜約4,900~5,700付近の500hPaではほとんど見られない。
日本に影響を及ぼす寒冷高気圧としてシベリア高気圧があるが、気団の項で前記してあるので、もう一つの寒冷高気圧、オホーツク海高気圧について少し書いておく。オホーツク海高気圧は、北太平洋気団や移動性高気圧がオホーツク海に差し掛かると、寒冷な海水により冷やされ気団変質が起き、海霧を伴う寒冷高気圧となり滞留するものである。発生時期は4月末から8月で、チベット高原の影響による偏西風の分流により停滞する。この高気圧の勢力が梅雨前線や冷夏などの気象に影響を与えている。

[3]  移動性高気圧
2つの温帯低気圧の間を低気圧と共に移動していく高気圧である。
日本においては、揚子江(長江)気団より一部が分離して移動してくるものであり、最初は寒冷であるが、移動中に温暖な海流に暖められ温暖な高気圧になる。
移動性高気圧の前半では、風が弱く晴天であるが、中心部を過ぎると続く低気圧の影響で次第に上層雲が増えていき、やがて雨になる。

E  前線とは
発生地が異なる寒気団と暖気団が出会う地表部の境界のことである。
前線付近では、気温や風向き、風速が激しく変化している。
前線は、4つのタイプに分類されている。

[1]  温暖前線
一般的に暖気の方が寒気より勢力が強く、低気圧に吹き込む南寄りの暖かい空気が、前方にある冷たい空気の上に吹き上がるところに発生する。北半球において温帯低気圧発生当時は、低気圧の南側に存在するが、段々進行方向に向かって反時計回りに動いてくる。ある程度北上すると、寒気の勢力が強まり北上が止まり東西に連なって伸びる。その長さは、数百km~2,000km程度であり、前線の境界面における雲域をみると、平均500km~1,000km以上になり雨域は、300km程である。
境界面は、一様に傾斜した比較的緩やかな境界面で、暖気が冷気の斜面をゆっくりと上昇していく。
気温は、ゆっくりと上昇して高止まりし湿度も同様であるが、晴天域に入るとやや下がる。風向きは、前線の通過に伴い、南東よりの風から南西よりの風に変わる。
雲は、湿潤な暖気が冷気の上にせり上がることによって対流が起き、層状の雲が発達しやすい。まず最初に現れる巻雲は、前線の1,000km程手前で現れるので、1日~2日後に前線による雨になることが予想できる。温暖前線に伴う雲の変化は、以下の通りである。
巻雲―巻層雲―高層雲―乱層雲―層雲
気圧の変化は前線の接近に伴って低下し、通過後も低下したまま推移するので、上空の雲の変化と気圧の低下で、ある程度の天気の予測は可能である。これが、別項に書く観天望気である。
注意して欲しいのは、前線に過度の湿った空気の提供、例えば台風などがある時は、非常に激しい雨になるということである。

[2]  寒冷前線
暖気団より寒気団が勢力を強め、寒気が暖気を押し上げて移動する際の接触面におきる。北半球においては、温帯低気圧の進行方向後面の南西方向に伸びる。
寒気と地表の間の抵抗によって、少し上部が迫り出した形で暖気に潜り込んでくる。このため、暖気が急速に上昇させられ、積雲・積乱雲が発生し、天気は急速に悪化する。大体の雨域は前線を含め70km程度であるので、通過後は天気が回復し次の前線まで続くことが多い。
気圧は、前線が近づくと下がり始め通過後に急上昇し、気温や湿度は前線が通過するまでは高めだが、通過後急速に下がることもある。
登山においてこの急激な気象変化は大変危険であり、実際の事故の原因ともなっているので、備えをしっかりとして対応していただきたい。

[3]  閉塞前線
温帯低気圧の中で前を行く温暖前線に寒冷前線が追いついた時にできる前線である。これは、寒冷前線の方が温暖前線よりも移動速度が速く、温暖前線はある程度北上すると停滞してしまうからである。
タイプは3つあり、追いついた寒冷前線の寒気と温暖前線前方の寒気の温度差で決まる。一つ目は追いついた寒気が暖かい場合は、前の寒気に乗り上げ温暖前線のような気象になる温暖前線型。逆に冷たい場合は、下に潜り込む寒冷前線型になる。尚、もう一つのタイプは、この寒気の勢力が拮抗している場合にできる中立型である。
この閉塞前線は、温暖前線が長く伸びているために全ての前線が閉塞することはなく、低気圧の中心付近で形成されることが多く天気図でみると3つの前線が繋がって見える。この接点を閉塞点と呼び、閉塞前線が温暖前線と寒冷前線のどちらにより直線的かをみると、そのタイプが分かる。例えば、寒冷前線に直線的なら閉塞前線は、寒冷型。という具合です。
閉塞前線ができると、寒気に挟まれた暖気は上空に追いやられやがて消滅する。つまり、閉塞前線が長く成長すると、低気圧のエネルギー源である南北の気温差を失い、その低気圧は勢力を弱めやがて消えていくのである。その期間は、閉塞前線の形成から2~4日後とされている。

[4]  停滞前線
この前線は、冷たい気団と暖かい気団から流れる二つの気流の勢力が拮抗しているときに現れる。日本における代表例は、梅雨前線・秋雨前線である。
停滞前線に関しては、山での行動中に移動してきて急激な気象の変化を及ぼすというよりも、基本的にこの前線がある季節は雨が降るという認識であるので、ここでは雨域と気象・雲の変化のみ解説する。
前線の雲域は、幅500~1,000km程で大部分は前線の北側にある。雨は、前線の北側300km以内で降ることが多い。多くの場合、変化の少ない弱い雨が長く降るのだが、時に低気圧や南方からの湿った空気の影響により強くまた南側でも降ることもある。基本的に前線付近では、曇天が続く。
前線が近づくと層雲―層積雲―乱層雲が現れ、時に積乱雲が発生することもある。

E 雷
よく言われる雷雲・積乱雲には、2つのタイプがある。
熱雷と呼ばれるものは、夏の日差しなどで急激に湿気を多く含んだ空気が急激に上昇してできる雲で、わずか5分程で高度1万メートルにも達する。つまり、突然湧き上がる雲はこの雲と見ていい。形成も早いが移動速度も時速40kmほどと早いので、過ぎてしまえば安心である。もう一つが界雷と呼ばれる方もので、前線が原因で発生するために前線上のどこでも発生するので、発生までの雲の変化も分かりにくい。又、長時間続きその範囲も広いので非常に危険である。
そして、山に登る者がもう一つ気に留めておかなければいけない雷に、山岳雷というものがある。これは、湿った暖かい空気が山腹を強制的に上昇させられてできる雲によるもので、自分がいる場所次第では突然雷雲に囲まれる場面も想像できる危険な雷だ。
落雷は、近くの高いところに落ちると思われがちだが、実際には違う。
実際には、落雷直前の稲妻停止位置を中心に雷撃距離を半径とした球内の一番近い所に落ちる。そのため、高山に登っている時には上から雷が落ちるとも限らず、必ずしも高い木があるから安全とも言えないのである。
下記の図を雷を避ける際のヒントにして欲しいが、森林限界を超えた山では、自分自身が一番高いということにもなりかねないので、雷が鳴り始めたら例え音が遠くても急いで高度を下げ、近づいてきたら可能な限り身を低くして備えて欲しい。

雷の保護角図

F 観天望気
私自身、観天望気に関して未熟で、基本的に事前の気圧配置による自分なりの予想と天気予報に頼りがちなのだが、この観天望気を身に付けるという事は、山に登る者にとって気象遭難をはじめ、多くの事柄から身を守る大切な知識というより技術と言えるものなので、是非お互いに学習し身に付けていきたいものである。
では、観天望気とは何か。簡単に書くと、雲の動きや風の様子を観察しヒントを得て天候を予想・予測することである。これまでに一度は「古傷が痛むから雨が降る。」という言葉を耳にしたことがあると思う。これは、古くからの天気に関わることわざの一つで、こういった古いことわざは、経験による局地的な天気を高い確率で予測するものとして存在している。これら古くからの知識と現在の天気予報等の情報に加え周囲の事象を観察し、雲の種類や動き、霧の状況変化や風の向きと強弱、動物の行動や植物の状態などを把握することで感覚と知識を併せて判断する観天望気は、より正確な天候判断となる。

雲形分類

*悪天に向かう雲の変化は、おおよそ次の通りになるがその間の変化も見逃さないで欲しい。
巻雲→巻層雲→巻積雲→高層雲→乱層雲

[1] 巻雲(すじ雲)
氷晶が集まってできた上層雲。積乱雲の雲頂付近や温暖前線の全面に出現。細く白い雲が集まり絹のような光沢を放つことから、絹雲(けんうん)とも呼ばれる。見た目は、雲を櫛でといた様な感じにも見える。好天巻雲(晴巻雲)と悪天巻雲(雨巻雲)の2つがあり、好天巻雲は曲がったり乱れたりしていることが多く悪天巻雲は鉤状の雲が広がり巻層雲に変化していく、巻雲が出たらその後の観察に留意して欲しい。(例)悪天巻雲が出ると12~24時間を目安として雨になる。夏、濃い巻雲が急に増えると雨になり積乱雲の上層に発生すると雷の発生も予測される。

[2] 巻積雲(うろこ雲・さば雲・いわし雲)
氷晶が集まってできた上層雲。降水もあるが、地表には達しない。白く陰影の無い小さな雲片が集まり魚の鱗や水面のさざ波のように見える。続いて高積雲や高層雲が出ると雨になる。
*高積雲とよく似ているので間違いやすい。見分け方として、高積雲より高い位置にでき、一つ一つの雲片がより小さく薄いため太陽の光が透けて見える。

[3] 巻層雲(うす雲)
氷晶が集まってできた上層雲。白く層状に出て、やがてベール状に空一面を覆う。低気圧や温暖前線の先端付近に出現することが多く、全天に広がると悪天の兆し。しかし、温暖前線を持つ低気圧の北側にいる場合は、その後に晴れてくる場合も多い。太陽や月を覆って暈ができて、その輪郭を見ることができる。

[4] 高積雲(ひつじ雲・波状雲・房状雲)
氷晶からできることが多いが水滴の場合もある。単体の綿雲のように出ることもあるが大きな雲塊になることもある。はっきりとした白色をしており、下部が灰色でこの集合体がひつじが群れをなしているように見える。また、小規模の大気波の影響で波のような形に見えることもある。厚さによっても分類されており、太陽や月を透視できるくらいのものを半透明雲。完全におおいつくしてしまうものを不透明雲という。温暖前線に伴って現れる時は、雨が近いことを告げる。

[5] 高層雲(おぼろ雲)
水滴と氷晶の集まりで一部雨滴や雪片が含まれることがある比較的高いとこに現れる中層雲。低くなると、太陽を隠すほど厚くなる。空全体を覆うことが多く、薄い時も太陽をすりガラスを通した程度しか見えず、巻層雲のように眩しく感じず、これが巻層雲との区分基準になっている。ぼんやりとした雲で形を成していないが、低気圧や温暖前線が近づいている場合、巻雲や巻積雲に続いて現れ次第に厚みを増し灰色が濃くなり下部が形を形成し始め乱層雲(雨雲)となる。天気は、高層雲ができ始める頃から小雨若しくは雪やみぞれが降ることもあり、乱層雲に変化する頃には本格的な雨になる。雨が降りそうで降らない雲というのは、この高層雲の事が多い。

[6] 乱層雲(雨雲)
水滴・雨滴・氷晶・雪片の集まりの中層雲。高層雲が厚く低くなってできたもので太陽や月は完全に隠れてしまう暗灰色をした雲で雨雲や雪雲と呼ばれる代表的な雲。温暖前線や低気圧が近づいている時には、高層雲に続いて現れ雨や雪を降らせ、寒冷前線や発達した積乱雲が近づいている場合には、乱層雲の後に積乱雲が続き更に荒れるので、要注意である。この雲は、中層雲に属しているが厚く垂れこめている時には、標高数百メートルの山にぶつかることがあり、風上側の斜面では雨量が多く風下側では雨が少量になる雨陰がみられることもある。

[7] 層積雲(くもり雲。むら雲)
色々な雲の交じり合いで、通常は水滴の集まりの下層雲。塊上の雲が流されて層状になるものが多く、天気は穏やかなことが多い。一つ一つの雲塊は大きく、空一面が一つの繋がった雲に覆われることもある。ある程度の標高から見られる雲海もこれにあたる。夏の早朝から雲海が乱れ積雲へ変化すると雷が発生する可能性もある。

[8] 層雲(きり雲)
最も低いとこに出る雲で灰色または白色。山ではガス、霧。地上にでれば霧のことである。大体、地上~標高2,000mほどに現れる。

[9] 積雲(わた雲)
団塊状に上部はモコモコと形がよく変わるが雲底は水平で変化はない。日射によって地表や水上の空気が暖められ、その上昇気流によって発生するので、晴れた日の午前中に現れ日没と共に消える。大気の不安定さなどの条件によっては、大きく発達し入道雲になり、さらに発達すると雷を伴い大雨を降らせる積乱雲になることもある。寒冷前線に伴う積雲は、悪天積雲である。

[10] 積乱雲(雷雲)
何らかの理由で発生した強い上昇気流によって、積雲からさらに巨大な雲になり積乱雲となる。最大で雲のサイズが1万メートルを超えることもある。雲の輪郭はしっかりしているが高層に達した積乱雲は、巻雲の特徴である繊維状になる。天気は、雲の下では激しい雷雨になり冷たい突風が吹く。寒冷前線や台風に伴う雲は必ず雨になる。

*悪天の兆しとして、その他にも笠雲・レンズ雲・つるし雲・くらげ雲などがある。

G  雲以外の現象と天気
・ブロッケン現象
朝のブロッケンは、西に雲やガスがあるので悪化。夕方は逆に好天が予想されるが、一時的な層雲の場合もあるので、その後の雲に注意を払う。

・下界の音がよく聞こえる
天気は下り坂。上昇気流や湿度が高くなり音が伝わりやすい。

・山風・海風
通常は日中が海風(谷風)、夜間が山風だがこれが日中に稜線から山麓へガスを伴いながら吹き降ろしたり、逆に夜間にガスを伴って吹き上げるようなら天気は下り坂となる。

・南寄りの風
高層の気圧の谷の接近で、南寄りの風吹き始めたら荒天の兆し。ただし、いる場所の地形によって風向きが変わることもあるので、南寄りの風を感じたら雲で上空の風向きを観察してみるとよい。

*これらの現象以外の様々な自然現象からも多くのヒントを得て、近い先の天気を予想・予測することができる。観天望気とは、これら知識と経験によって精度の高い予測を可能にするので、多くの経験や観測したデータを残して、自分なりの観天望気を確立させていただきたい。