はじめに 山人タグの目的と意義

(公)日本山岳ガイド協会 認定登山ガイド
天野 健司

まずは、はじめて山人タグへの興味を持っていただき誠にありがとうございます。

山人タグを作ろう。そう思い立ったのは、登山ガイド検定を終え、一年間プライベートの山をほとんど登らず、勉強のための山ばかりをしていたことからの解放感に浮かれていた時でした。

既に、ガイドクラブに所属し数回のサブガイドとしての経験もありましたが、登山者としての山行といえば、ソロでの山か気の合う仲間との山が大半をしめ、お互いの実力、また体調の変化も言葉遣いや表情、体の使い方でその日の調子が分かるという、ある意味で安心な仲間との山ばかりでした。

しかし、登山者としては、どうなのか。

登山計画書も慣れと面倒くささから、初めての山域や経験値を上げるための挑戦的山行以外は、家族・友人に最終目的の山名を告げるのみで、未提出のことも多くなっていたのが現状でした。登山計画書の提出をしている場合でさえ、ネットでの提出ならいざ知らず、紙による無人のボックスの提出は、家族の個人情報漏洩に繋がると、あいまいな書き込みで、仲間の緊急連絡先も確認・メモを取ることもしていませんでした。特に異姓の個人情報は悪用する気がなくても、嫌な顔されたらどうしよう。などと、余計な事を思い、一切こちらから聞かないようにしていました。

もちろん、この行動は、山に入る人間としては、ガイドとしても一登山者としても失格。

よく聞く、山をやっている人の言葉に「山は、全て自己責任」と、いう言葉があります。
果たして、そうなのでしょうか。
ガイド検定の学習を始める以前から思っていた事で、検定を通じて確信に変わった事の一つが、「山に自己責任はある。しかし、事が起きた時、自己責任で完結することはない。」と、いうことでした。
ある時立てた山行計画。その山行が満足いくものであったかどうか。それは、全て自己責任であり、誰かの計画に乗っただけ、という人も、そこに自分の意志や知識・体力の面からでも意見を言わなかったという点で自己責任であると思う。もちろん、山に持ち込んだ物は、持ち帰る。なども、自己責任として実行して欲しい事柄だが。
では、何が違うのか。

もし、あなたが山の中で怪我をして動けなくなったら、どうします?それが、意識を失うほどの怪我だったら?そんな人を見かけたら?自己責任として、放置できますか?
もし、不幸にも山の中で事故に合い命を落としてしまったら、家族・友人は悲しみませんか?残された家族は、その後ずっと苦労せず、あなたの為に涙を流すこともなく、笑って生活していけますか?最悪、身元不明者として、山を下りたいですか?
事故を知った人は、懸命に捜索をするでしょう。生死に関わらず、山を下ろしてあげようと、危険と隣り合わせの中、全力で取り組む人がいるんです。そこで、2次災害に合う可能性の中。その人たちに、自己責任だから、放っておいてくれとあなたは言えますか?
山に入るという事は、必ず生きて元気に帰るという事が、僕は負うべき責任と考えます。

このことが、僕が失格と書いた要因です。
登山計画書の提出。自分の為、家族・友人の為、捜索してくれる人々の安全のため。必ず提出してください。
話が逸れましたが、この計画書の中でやはり、一番難しいのが個人情報のことでした。浮かれた山行の中、はじめましての異姓の方に個人情報を聞くのもためらわれ、例え聞いたとしても、その内容の信憑性は闇の中。グループ登山のリーダーをよくされる方には、賛同していただけるかと。
ガイド登山では、緊急連絡先を記入してもらうことは、当たり前の事ですが、全ては書いていただいた事を信じるしかありません。個人情報の管理・漏洩の事が色々問題になる以前は、こんな事なかったのでしょうが。

そこで、タグとしてそれぞれの個人情報・緊急連絡先を常に身に付けていてはどうか。と、なった次第です。実際に事が起きた時、登山計画書の提出先を探し内容を確認して連絡をするまでに、どれほどの時間を要するか、想像してみてください。一緒に山に行く仲間にタグを持っている事を伝えるだけで、緊急時に必要な連絡先や医療情報を瞬時に手に入れ、連携することができます。また、このタグを多くの人に認識してもらうことで、例え山以外の場所であっても、強い味方となれるよう、努力していく次第です。
しつこいようですが、例えタグを持たれていても、登山計画書の提出は、必ず行ってください。登山計画書の意味と現場での緊急時のタグの役割をご理解いただけたら幸いです。

今後、(公)日本山岳ガイド協会認定ガイド、そして多くの山の情報サイトの協力を仰ぎ、この山人タグのサイトから多くの情報へのアクセスしやすい環境を作り、より正確に安全な登山を笑顔で楽しんでいただけるように邁進してまいりますので、よろしくお願いいたします。